『火定』を読んでいたら藤原4子(ふじわらしし)のうちの一人、藤原房前(ふじわらのふささき)が出てきました。
この房前は、藤原不比等(ふひと)の次男です。
房前は疫病で亡くなってしまいます。
そして次々と人々の身体と心に天然痘が蝕んでいきます。
この小説は歴史を振り返りたくなるような物語でした。
【感想】澤田瞳子の『火定』
表紙の絵の地獄絵図のようなことが起こったのは、今から1250年以上も前のお話です。
この小説は聖武天皇の時代でした。奈良時代の最盛期にあたります。
天平(てんぴょう)9年(737年)に疫病・・・天然痘が流行します。人々が次々に病死するなか、藤原四兄弟を始めとする政府高官達もあっという間に病魔に倒れます。
主人公である、若き官人である蜂田名代は、光明皇后の兄達の藤原四子(武智麻呂、房前、宇合、麻呂)によって設立された施薬院の仕事を早く辞めてやろうと思っていました。
出世のためには、別の部署に配置換えをしてもらう方が有利だと考えられるからです。
だから、民からお金を取らずに病気の治療をする、施薬院の仕事に全く身が入りませんでした。
そんな彼が見た、地獄絵図の中で、人々は狂気に駆られていきます。
人々は、理不尽になすすべもない病気に侵されると、判断能力が狂っていきます。なので天然痘になすすべもなかった市中の人々の心は間違えた方向へと進んでいってしまいます。
主人公の若き官人の目を通して、人間の業深さを見せつけられるのです。
内容紹介
パンデミックによって浮かび上がる、人間の光と闇。
これほどの絶望に、人は立ち向かえるのか。AmazonHPより
果たして人間は正気を取り戻せるのか?
それがこの小説の見物となっていきます。
史実に基づいた歴史小説です。
藤原4子の藤原房前ってどんな人?
この小説の中での出来事の、天然痘で揃って無くなってしまったのがその時の政権の中枢にいた藤原4兄弟だったのです。
この藤原4子(またの呼び名を藤原4兄弟)の中に藤原房前(ふじわら の ふささき)だけが登場します。
藤原 房前は、飛鳥時代から奈良時代前期にかけての貴族でお父さんは藤原不比等(ふじわら の ふひと)です。
藤原4子(ふじわらしし、ふじわらよんし)または藤原四兄弟と呼ばれています。藤原不比等(ふじわら の ふひと)の次男です。
不比等は、大宝律令(たいほうりつりょう)に携わり、同様に平城京遷都にも関わっていた人物です。
また、不比等は、かぐや姫の物語のなかで「蓬莱の玉の枝」を持ってくるように言われた皇子のモデルとも言われています。
お父さんの話を長々としてしまいましたが、
房前は兄弟の中で一番、政治能力があったと言われています。天平9年(737年)4月17日に天然痘で亡くなってしまいますが、他の兄弟の誰よりも早い時期に発病したので、この『火定』という小説にも登場することになったのだと思います。
藤原の4兄弟は、天然痘に次々と罹ってしまい、相次いでこの世を去りますが、
それは、”長屋王の変” で長屋王を自殺に追い込んだ祟りと伝えられています。
父である藤原不比等(ふじわら の ふひと)亡き後の元正天皇と聖武天皇との時代になると、
長屋王と藤原4兄弟は政権の座を争います。そこで、「長屋王の変」と呼ばれる事件が起きたのです。長屋王を謀反の疑いをかけ、追い詰めました。
長屋王亡きあと、
政権を担う9人の公卿の中に、4兄弟が全員加わったために、藤原氏の発言力が高くなりました。
その時の政権を「藤原四子政権」と呼びます。
小説『火定』は主人公の蜂田名代(はちだのなしろ)が勤めている施薬院(せやくいん)が舞台になっている話です。
この施薬院は、孤児や飢人を救うための病院で、天平二年(730)に皇后の藤原光明子(こうみょうし)によって建てられました。
彼女の実家である藤原氏の寄付で運営をされています。
ですが、皇后や藤原4兄弟がここを訪れたことはなく、売名行為で建てられた病院なので、設立目的が不純だから、崇高な役割を果たしているのにも関わらず上手くは運営されていないのが実情でした。
藤原4兄弟は、聖武天皇との血縁を頼みに、眼の上のたんこぶであった左大臣の長屋王(ながやおう)を自害に追い込みました。そして、国の政治の執権者の座を占めます。
施薬院はその世間の非難をかわすために作られた施設なのでした。
【感想】澤田瞳子の『火定』に藤原4子のまとめ
人間はどこまで落ちてしまうのか?どこまで判断がくるってしまうのか?それらは修復できるのか?
とこの小説は訴えています。
天然痘の猛威に立ち向かっていくのは、やる気のなかった役人、罪を着せられて投獄をされてしまった優秀な医師、その彼に医療の世界に戻って来てもらいたい婚約者、権力のない医師です。
主人公は人は死ねばそれだけだと思っていました。ですが、気持ちは変わります。
どう変わったのか、ぜひ読んでみてください。