介護の仕事につくために奮闘している60代男性のスクール体験談です。本人はここで書いたことで、授業の振り返りに役立ったと言っていました。さすがに濃い内容ですね。
介護職員初任者研修スクール実践
介護初任者研修の受講7回目。今回で2回目の実習である。
今回のテーマは、
「移動・移乗に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護①」
である。
簡単に言うと「ベッド上の移動とベッドから車いすの移乗」である。ちなみに次回も同じテーマだが、今回の続編となるようである。
介護職員初任者研修のスクールでどんな先生が教えているの?
今回の先生は、40代前半の男性教師である。
前回同様コロナウイルス対策 のため全員マスクをしている。生徒は男性3名、女性9名の計12名である。
先生は、介護の仕事を初めて19年になるそうだ。大学を出ても就職する所
が無かったので、介護の仕事をしていたお母さんのコネを頼り、特別養護
老人ホームに入ったそうである。
19年前といえば就職氷河期だったので、かなり優秀な人材が大勢介護の世界に入って来たのではないだろうか?
80人位の利用者を3人で看ていたというので、ものすごく忙しい職場である。
ここにいた7年間で、多忙ながらなんと、介護福祉士、ケアマネージャー、
柔道整復師の3つの資格を取った。
先生は、ここの職場(特別養護老人ホーム)では「技術」を学んだそうである。
次に、優良老人ホームへ行き、そこでは、サービスとしての介護「接遇」を学んだ。
さらに今度はグループホーム(認知症対応型共同生活介護)へ行き、「認知症ケア」を学んだ。
ここで先生は上司から衝撃的な言葉を教わる。それは、認知症の人は「感情の残像」があるという事だ。これは、先生自身、漠然としていて言葉ではうまく説明できないが、ずっと感じて来た事だった。
初めて会った認知症の人に笑って挨拶した時に、無視されたり、敵意を持たれたりする事がある。
しかし、毎日にこやかに挨拶を続けて3か月位経つと、その認知症の方から、にこやかに挨拶が返って来たりするそうだ。5分前に食事した事を忘れる人が、毎日にこやかに挨拶する人を覚えているのである。
いい印象が残像のように残っているのだ。
逆に介護者が悪い印象を与え続けると、その介護者から逃げる様な反応をする。たいへん興味深い話である。
先生は、「技術」「接遇」「認知症ケア」を学んだが、移動した職場の順番がまさに学んでいくのに理想的な順番だったそうだ。現在先生は、100人規模の有料老人ホームで指導をしているそうである。
介護職員初任者研修スクールの実践2回目 A.M.授業
実技では、生徒が二人一組になって利用者役と介護者役を演じる。
利用者役は、佐藤梅子さん(85歳)という女性という設定である。
彼女は右片麻痺で軽度の失語症がみられ、”自力での食事にこだわり”を持っている。
介助者としては、佐藤さんは左半身は動かせるので、動かせる所は自力で積極
的に動かしてもらう。
そのため、介助者は動かせる部分には触れないようにする。また、積極的な声掛けをするが、軽度の失語症なので、なるべく「はい」「いいえ」で返事が済むような質問の仕方をする。
そして、腰を痛めないようにボディメカニクスを活用する。
ボディメカニクスの基本
原理は簡単に言うと
- 足を広げて重心を落とす
- 体を近付ける
- 大腿四頭筋を使う
- 利用者の身体を小さくまとめる
- 利用者を手前に引く
- 重心移動
- 体をねじらない
- てこの原理
以上8つである。
午前中は、「ベッドの右側に寝ている佐藤さんを左側へ移動させる方法」と
「ベッドの下方側に寝ている佐藤さんを上方側へ移動させる方法」をメインで行った。
では、まず、「ベッドの右側に寝ている佐藤さんを左側へ移動させる方法」を
ボディメカニクスの基本原理の面から解説しよう。
「佐藤さん、入りますよ!」
ベッドの左側寄りに寝ている佐藤さんの足元側のドアをノックして部屋に入ってから、
「 佐藤さん、こんにちは。ご気分はいかがですか? 」
最初に佐藤さんへ挨拶する。
「佐藤さん、ちょっと左に移動してもらえますか」
そして佐藤さんの左側に立って、右寄りになっているので少し左側にずれてもらってよいか聞く。
了解を得たら、
まず枕を左へずらしてもらう。そして、右手を左手で抱え、右足の下に左足を交差させて右足を浮かせ、さらに頭を少し上げてもらう(基本原理④利用者の
身体を小さくまとめる)。
ここまでは、佐藤さんに自力でやってもらう。
あとは介助者が右腕を腕枕のようにして佐藤さんの頭を抱え、背中の一番
重みがかかっている部分に左手を奥まで入れる(基本原理②)。
両脚を広げて(基本原理①)両ひざをベッドのフレームに付ける。
これが、てこの原理の支点となる(基本原理⑧)
この状態から腰をスクワットのように下に沈み込む。この時、先生曰く
腿(もも)がプルプル状態(基本原理③)だが、
それ以外は全く力が入っていない脱力状態である。
腰を落とす力を利用して非常に楽に佐藤さんの上体を手前(佐藤さんの左側)へずらす事ができた。
次に、佐藤さんの腰を手前に引くために左側にずれる。両手を水をすくう時のような形にして、おしりの下に入れたら、
先ほど同様フレームにひざをフレームにつけて腰を落とすと佐藤さんの腰も手前に移動する。
脚は軽いので、両手ですくうようにして手前に移動させたら移動完了である。
次は、「ベッドの下方側に寝ている佐藤さんを上方側に移動させる方法」だが、
佐藤さんに先ほど同様右手で左手を抱えてもらう。
だが脚は先ほどと違い両膝を曲げて立ててもらう(基本原理④)。先ほど同様、右腕は腕枕のように佐藤さんの頭を抱え、左手は背中の下から奥へ回す(基本原理②)。
佐藤さんのやや上方側の立ち位置で脚を広げ(基本原理①)、
左ひざを曲げ右ひざを伸ばす(重心が8:2位)。上体は佐藤さんの方を向いている。
ここから綱引きのように左足から右足へ体重移動する(基本原理⑥)。
その際、上体は佐藤さんの方を向いたまま高さも変えずに横へ動く(基本
原理⑦)。
最後は、左ひざが伸び、右ひざが曲がっている(重心が2:8位)。
”左ももプルプル状態”から”右ももプルプル状態”になるわけである。こうする
と余計な力を使わずに上方移動ができるのだ。
介護職員初任者研修スクールの実践2回目 P.M.授業
午後からは、「ベッドから車いすへの移乗する佐藤さんの介助」である。
最初の90分はパートに分けて段階的にやり、最後の90分で最初から最後まで通
して行った。
先生から声掛けが重要と言われたので、
今度は声掛けを中心に内容を説明しよう。
質問はなるべく短い返事で答えられる様に心掛ける。
ドアを3回ノックし(2回だとトイレになってしまう)、目線を落として
「佐藤さん、こんにちは。ご気分はいかがですか?」
「食事の用意ができましたが、車いすに移れますか?」
「ベッドを高くしてよろしいでしょうか?」佐藤さんが起き上がりやすい高さにする。
「頭を少し持ち上げて枕を左へずらせますか?」
「左手で右手を右肩の方へ持ってこれますか?」
「ありがとうございます。今度は左手で右手の肘を抑えておいて下さい」
「左脚を右脚の下に交差させて右脚を少し持ち上げられますか?」
「右肘を抑えてますので、左手で左側の手すりを掴めますか?」
「左手に力を入れてこちらへ横向きになれますか?」
両手で軽く上から引いて手伝い、仰臥位から側臥位になってもらう。
「頭を少し持ち上げてもらえますか?」
右手で佐藤さんを抱き枕状態、左手は佐藤さんの脚の下に入れる。
「ベッドの端に腰掛けられますか」佐藤さんに左手、左脚に力を入れてもらいな
がら頭を持ち上げ、脚を下へ卸してベッドの端に端坐位になってもらう。
「ご気分はいかがですか?」様子を見て「左足のくつを履けますか?」
と左足は出来るだけ自力で履いてもらう。
そして「右足のくつをお手伝いします」と右足はほとんどの部分を手伝う。この際に下ばかり見ずに、佐藤さんが後ろに倒れないか上半身にも注意する。
この時、佐藤さんは深く腰掛けた状態だ。立ち上がるには浅く腰掛け直す必要がある。そこで「左足を少し前へ出せますか」自力で出してもらう。そして「少し左へ重心をかけてもらえますか?」右側の体重が軽くなったところで「右足を前
に出します」と右足を介助する。
この状態で座っている佐藤さんの左斜めぎりぎりまで車いす接近させてからブレーキをかけておく。
「左手で車いすの左側の手すり(アームサポート)につかまれますか?」
つかまってもらってから
「左手と左足に力を入れておじぎをするようにして立てますか?」
佐藤さんの右側から右手で佐藤さんのひざに手を当て、左手で支えて一度おじぎをするようにして立ってもらう。
佐藤さんの右ひざが伸びたら右手を離す。
「車いすへ移れますか?」
両手で佐藤さんを前から支えながら半時計回りに身体を沈み込ませながら佐藤さんを車いすに座らせる。
この時、沈み込まないと佐藤さんの頭に介助者の頭が当たってしまう。沈み
込む時は、やはり、”ももがプルプル状態”である。
この時、佐藤さんは車いすに浅く座った状態である。「左腰を奥へ移動できますか?」
移動したら
「今度は右腰を奥へ移動します」
と言って佐藤さんの前に腰を落とし、佐藤さんの右ひざを90度よりもやや鋭角にする。その右ひざに右手を当て、左手は佐藤さんの右腰に当てる。
そして右手を押すと佐藤さんの右腰が奥へ移動する。左手は車いすのバックサポート(背もたれ)まで到達したかを確かめるセンサーになる。
「座り心地はいかがですか?」確認後「フットサポートに右足を乗せます」と言って、フットサポートを引き出し、右足を乗せる介助をする。
佐藤さんは左足と左手を使って車いすを動かすので、左足はフットサポートに乗せない。
「左右のブレーキを外して食事に行きましょう」と誘うと佐藤さんはブレーキを外して車いすを漕ぎ出す。
ここまで終了である。初めのうちは動作だけにに没頭してなかなか出来な
かった声掛けが、最後はここまで出来るようになった。
介護職員初任者研修スクール授業のようす受講7回目で実践は2回目まとめ
実習中に先生が「テキストに付いているDVDを観た人~?」と質問した。
これに対し、生徒たち「シーン」。先生「マジか・・・」。そんなやり取
りがあった。
実は、ベッドから車いすへの移乗の場面があり、そこを観てほしかったらしいのだ。
家に帰ってから改めてDVDを観てみた。すると先生から教わった方法と異なり、座っている利用者さんのまん前に車いすを置いていた。そして女性の介護者がおじいさんを180度も回転させて車いすへ座らせていたのだ。
先生から教わった方法に比べるとちょっと危ない気がした。DVDはちょっと古いものだったのだろう。
介護の技術も日新月歩である。ひとつの方法に囚われることなく、いつも頭を柔軟にして変化に対応していけるようにすることが重要だと思った。